視察報告|福島県いわき市のCSG堤防工事、復旧・復興事業
令和元年9月2日、東日本大震災で甚大な被害を受けた福島県いわき市の夏井地区海岸CSG堤防工事と薄磯地区復旧・復興事業を視察してまいりました。
平成23年3月11日14時46分発生の東日本大震災で、いわき建設事務所管内は地盤沈下と津波で大きな被害を受けました。いわき市の震度は6弱、地盤沈下は50センチメートル、津波は8メートルを超える高さに達し、浸水面積は15平方キロメートルに及んだそうです。
平成31年3月末時点で、河川、海岸、砂防、道路、橋梁、公園などいわき建設事務所管内合計235か所の復旧工事は356億円を費やして完了したそうです。
津波被災地復興まちづくりの基本的な考え方として、レベル1(数十年から百数十年の頻度で発生)の津波については、すべての人命と資産を守るという前提で海岸保全施設(堤防など)を整備。千年に一度程度のレベル2の最大クラスの津波に対しては、住民の避難を軸に、海岸保全、避難路、防災緑地などのハード整備と防災訓練、防災教育、ハザードマップ作成などのソフト対策を組合わせた多重防御による津波防災・減災対策を講じています。
具体的な復興まちづくりのイメージは、海岸側から陸地に向かって、かさ上げした海岸堤防(県施行)、防災緑地の新設(県施行)、かさ上げ復旧した道路(県、市施行)、そして高台に区画整理や防災集団移転した住宅地(市施行)という形です。
復旧事業は完了しているものの、人・まちつくりはまだまだ途上であり、ほかの地区からいわき市に避難している2万人を含め行政や自治会のやるべきことは山積しているとのこと。
インフラ面では、今後、復興再生特別措置事業として「ふくしま復興再生道路」の整備が8路線計画されているそうです。
夏井地区海岸CSG堤防工事
無堤防区間で津波による甚大な被害にあった夏井地区の堤防は、津波で越水した場合でも破堤しにくい粘り強い堤防を目指しています。
被災した堤防から築堤材(土砂)が水の力で流出し破堤に至った堤防が多かったことから、堤体にはコンクリートガラを破砕し、セメントや水を混合した「CSG」を材料として堤防を築いています。使用したコンクリートガラは、いわき市内で発生したガレキのうち、コンクリートガラを母材として全量使用、本来であれば産業廃棄物として処分しなくてはいけないものを有効利用した全国初のケースとなりました。
母材が容易に入手できたこともあり、延長920メートル高さ7.2メートルの海岸堤防はわずか11ケ月で完成した。
薄磯地区復旧・復興事業
津波被害からの復興計画策定では、薄磯、沼ノ内、豊間の3地区合同で協議し、「若い世代が戻ってこられるまちづくり」を目指したグランドデザインとなっているそうです。
視察した薄磯地区(海岸)は福島随一の海水浴客があったところで、夏井地区等では海岸線に高い堤防を築いて津波対策としているのに対し、薄磯海岸では、海岸線に海の見える道路、その陸側に海岸線を一望できる防災緑地、さらに陸側の高台に住宅地を造成しています。
行政、地区住民、民間がアイディアを出し合って地域のインフラ整備から地域づくりの計画までを復興未来計画として策定・実践が進みつつあるそうです。
視察を終えて
復旧・復興のインフラ整備にあたり、どのレベルの津波までを想定した築堤なのかに関心を持っていましたが、レベル1(数十年から百数十年の頻度で発生)を統一した基準として各地で整備されているということで、堤防を高くすればそれに越したことはないとはいえ、予算もあり、また景観も損なわれるという現実を考えた場合、妥当な基準ではないかと納得させられました。
それでも海岸線の道路からは堤防だけしか目に入らず、太平洋の海岸が見られるのは限られた地区だけとなったことは、何かさみしい気持ちになりました。
人命、財産を守ることが優先されるべきと分かってはいるものの、なにか解せない気分も持ちながらの視察でした。
震災・津波の直後から数年間は、いたるところにガレキや被災した車の山が目につきましたが、視察した時点では住環境も道路も各施設も驚くくらいに整備されていました。
農地も、ガレキや海水に覆われ作付け不能の期間があったものの、すっかり除塩まで完了し緑豊かな風景が広がっている事に、関係者への感謝と敬意を抱かずにはいられませんでした。
このように、復興特別所得税が有効に活用されている現実を目にしたとき、予算は必要なところに必要な額を充てるべきであると強く思いました。