新潟市の農業法人の現状と課題に関するアンケート結果報告
-集計結果と所見-

令和7年3月 伊藤亮司・堀正和 

【目次】|1.はじめに2.アンケート調査の概要3.調査結果4.まとめと提言5.参考(単純集計結果)全文データダウンロード(PDF:1.6MB)|

※3月13日に新潟市役所議会棟 全員協議会室にて実施した、新潟大学農学部 伊藤亮司助教による報告会の様子を動画でご覧いただけます。
こちらからご覧ください(52分)

1.はじめに

 (1)アンケート調査の狙い

新潟市議会農政議連(佐藤幸雄会長)では、新潟市の農業振興に寄与すべく諸政策の提言、要望を行いながら頑張る農家を支援しています。
この度、農政議連として農業をめぐる昨今の情勢について、現場の声を直接伺いながら新潟市の農業の現状と課題を整理し、今後の活動に活かしていく所存です。
→配布:208部、回収:114部(回収率:54.8%)・集計97法人(集計率47.1%)

(2)アンケート集計結果のポイント

1.高い回答率(114法人)→新潟市農政議連の信頼性

2.計3,369ha(97法人)/新潟市耕地面積32,000ha=10% 未回答含めれば2割程度?
  残り8割は、個人(法人が任れていない)・・・今後どうする?(個人も大事・新潟の強み

3.過去5年面積増(97法人計)25%+今後の拡大余地23%(97法人計)→大きくない
  特に、積極的な規模拡大志向(30ha以上面積増)は「一部の(有名)10法人」
  残りの多くは、20ha以下の拡大志向+集落内・近隣集落止まり=すでに精一杯・限界
  規模拡大意向0ha:14% 無回答を含めれば28% すでに実質経営破綻や廃業予定も

4.構成人数(常時労働者数)577名=一人平均5,7ha 精一杯の規模拡大・ガンバっている
  ⇔農水省目標一人10haには届かない=地域農業の実態に合わない・時代遅れの農政
  平均60歳以上の法人が21%→今後の世代交代問題・経営継承問題が深刻化

5.(経営ゆとりのなさを含む)集落との関係が薄い法人:20(農事組合)~25%(農外)
  ベースとなる農村(集落)の維持・管理あってこその上物(生産・経営体)

6.市政への要望は、土地改良事業(特に農事組合)、機械・施設補助(特に株・有限)
  転用規制(青地白地)問題、担い手育成、耕作放棄地対策、集落機能などの声

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2.アンケート調査の概要

(1)調査対象および回答率

1.配布の分母:208法人=新潟市農林水産部の把握(2024年度)に基づく
2.配布期間:2024年10月
3.回収期間:2024年10月~11月
4.回収状況

(2)アンケート調査項目

1 法人・団体の概要
・経営面積規模、栽培作物、構成人員、
・法人設立(農外参入・地元農家・その他)、構成員の集落、正規雇用者の出身

2 規模拡大状況・今後の意向・集落との関係性
・構成員の後継者の状況は  ・構成員の家族で確保予定(既に就農済みを含む)
・現在の耕作地(集落内・集落外・区外)、今後の規模拡大意向(集落内・集落外・区外)
・出作先集落との関係 1)  農業関連(農道・水路維持管理)、2)農村関係(祭りや行事)

3 国や県、本市の農業政策について望むこと

4 今後の経営戦略
販売戦略(系統以外・系統重視・その他)、栽培方法(慣行・特栽・有機・その他)
・作業改善(現状維持・スマート化・その他)、労働条件(月給制・従事分量配当・その他)

5 農業経営で困っていること

6 農地の保全・活用(開発規制)について

7 市政への期待(要望や意見) (1)市政全般、(2)農業委員(会)の役割

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3.アンケート調査の結果

(1)類型ごとの基本的性格

(2)農地の引き受け力

今後可能な拡大面積(ha)

註:回答なしは「ゼロ」に算入した「~10haは10ha未満」「40ha~は40ha以上」

主な理由

労働力の確保・人手不足(19)
施設・機械の能力問題(17)
育苗ハウス不足、施設の能力、乾燥調製施設がまに合わない、施設の対応可能面積、基幹作業機械(トラクター、田植気、コンバイン)の能力、RC・育苗ハウスの規模、施設の規模、(←集落外は1~2ha) 今の状況(設備)から考えての上限、・施設を考慮、機械・施設の上限、乾燥調製施設の能力、乾燥機の能力、施設が限度を超えているから、(←10~15ha) 設備の稼働できる面積、品種構成や乾燥設備の能力による、現有施設能力、次のライスセンター建設後でないと増やせない
現状で十分(5)
今のところ増加しない予定、今のところ増加予定なし、近くで固めたいから、効率的な経営内容を維持したいから
作業上の都合(3)
耕作地が広範囲で移動に時間がかかる。集落外は時間がかかるためNG、作業効率を考えて
基盤整備の不足(3)
農地の集積が進んでいない基盤整備が必要、基盤整備に伴う計画応じた面積のため、集落内は圃場整備の予定なし
集落内の農地賦存(3)
大圃場を持っている人はこない、周辺は入作者で占められていて今後は集落内の個人農家しか要素はない、集落に農地がないが集積ができてない、・集まるなら10-20haでも可

7.9人、43歳、地区外雇用あり7、後継者あり8
過去5年で18ha増
出作先と無関係:維持管理0、祭り1
今後の戦略:スマート化8、月給制9

(3)今後の担い手問題

今後の農地引き受け余力

0~1ha:37組織、30ha以上:10組織

(3)今後の担い手問題

従事者の平均年齢

後継者の見込み

(4)集落との関係性

(5)その他

その他(農業政策への要望)

その他(具体的記述)

Q1 地域農業の発展および農村集落の機能維持のために、市政に期待すること

A(多かった意見・要望)
 1.圃場整備の加速(18)
 2.元気な農業応援事業の内容拡充(16)
 3.柔軟な農地利用・農地流動化(8)
 4.その他(全般(6)地域計画・担い手対策(7)園芸・畜産・転作作物(4)集落機能(2))
 5.(アンケートだけでなく)意見交換・対談の場・現場の声を聞く行政、アンケート結果の周知

Q2 農業委員会や地域の農業委員等に対する、今後の役割についての要望

A(多かった意見・要望)
 1.地域計画づくり(2):中心的役割+画実行の旗振り役、3年・5年先を見て準備すべき
 2.農地集積・集約化(10):農地所有者との連絡、開発のうわさで集積・集約が進まない事を改善、受委託等の手続の簡素化、各種情報提供、・経営基盤強化促進法維持
 3.耕作放棄地対策(8):雑草だらけの水田が目立つ、地主への積極的な指導
 4.農地転用(6):機械機材置場、施設用地、地域の意見を聞く、転用をし易くして人を増やす
 5.農業委員会体制・活動他(8):農業委員数の不足もっと定数を増やす、農業委員選出の基準明確化、現状で頑張って、期待できない、農業者と農業委員会は車の両輪

・基盤整備の推進(18)

・圃場整備を早く進めてほしい・基盤整備・早急な基盤整備・圃場整備の加速・基盤整備の推進・基盤整備・基盤整備への取組を進めてほしい・我が集落は事業を望む
・農道の整備など・農道の補修
・基盤整備の遅れている場所があり作業効率が悪く受け手がいない
・基盤整備や施設近代化への迅速な対応。
・圃場整備後20年以上経過した給水弁などのメンテナンス補助
開発のない小規模な集落にも、圃場整備や用水の整備を
・担い手に積極的に投資すべき。基盤整備を早期に行い、農地維持の負担を少なくする
大区画化を進めて、その中に大型の農業施設を建てたい
・現在進行中の基盤整備(大圃場整備)を行政主導で早急に進めてほしい。
少人数での農地維持困難。基盤整備が不可欠。圃場の漏水防止・支線排水の暗渠化

元気な農業支援事業など(16)

・がんばる農家など補助金の拡充・新潟市元気な農業応援事業は大変助かってます
・元気な農業支援事業はありがたいが、最大180万円の補助額上限をなくして全額3割補助
・元気な農業応援事業で機械の更新支援+面積要件緩和(無理をして面積を増やし、作業能力を超えた経営を行っている法人が増えている)
・施設の整備や更新、改築等の助成(規模拡大についていけない
・認定農業者の基準が高い。常に規模拡大するのは無理
・補助事業の補助率のアップと規模拡大の要件緩和
・機械導入の面積緩和、農産物の適正価格、親元就農への支援
・元気な農業応援事業の補助率の引き下げ停止、補助対象事業費の上限撤廃
・設備投資への支援とスマート化への支援と補助
・設備投資への支援・農機、農業施設に対する補助
・農業経営に対する補助金等の増額
・高額な農業機械購入の全面的補助
・経営規模拡大にあたり、設備投資にかかる全般的な支援が必要
・集積集約に合わせた農業施設の整備への補助
・施設等の補助金強化
大型のライスセンター等、JA・生産組織の施設建設資金の支援

農地制度(8)

・転用基準の緩和・実勢価格に見合わない市街化農地の再評価・農地転用の簡素化
・農地への農業用施設建設許可を早くできるような規制緩和
・農地の白・青の区別変更要件緩和、青が多く農業関係の施設が作れず、発展の阻害要因・農業ビジネス(農業+商業+サービス)につながる転用の迅速化
・集落内の農道が市道になっている場合、多面的機能支払が、使われないので困ってます・農地あっせんの復活・農地の委託情報、売地の情報提供

全般(6)地域計画・担い手対策(7)園芸・畜産・転作作物(4)集落機能(2)

1 地域農業の発展、農村集落機能維持にもっと力を入れて欲しい
・外国の様に農家の所得をキッチリ補償、魅力ある産業にしないとこの国は終わる
・田園型農業都市を目指すのであれば都市部と共存できる支援をおねがいします
耕作放棄地の再生
小規模農家が自立できる補助金政策
・農業が昭和の農業のままではダメ、ビジネスとして脱皮させる

2 実効性のある「地域計画」づくりに本腰を入れて取り組んで欲しい
地域計画を主導してほしい・農地の集積・集約を行政主導で取り組んでほしい
・中間管理機構のみならず、集積・集約の窓口手続をJA等にも与える
・農業が主体産業。若い人たちが、担い手となる政策を全国に先駆けどんどん打ち出す
・個人農も大事だが、若手中心の会社組織を育てる事業推進も
人員不足の解消

3 法人化して年数を経た面積の増えない団体への厚い補助
大豆の市単独補助金の基準(175㎏/反)のハードル緩和
転作作物への転換が、実交付金の不足で、経営がなりたたない
畑作と稲作の違いをもっと理解した上で畑作にももう少し力を入れる
・全国一の豚肉消費量(新潟市)なので耕種農業だけなく畜産農業も支援
・人口減少対策として加工による雇用の増を図る

4 農業農村に農業者が少なくなっている現状で、集落機能維持を期待できない
・少なくなる農家等で機能維持していく事ができなくなるのでは、という心配

5 まとめた提言やその結果について教えてほしい
・アンケートだけでなく、農家との対話を望む
地域とのコミュニケーションをもっと大切に要望を拾う

農業委員会や地域の農業委員等に対する、今後の役割

1.地域計画づくり:①中心的役割+画実行の旗振り役、②3年・5年先を見て準備すべき

2.農地集積・集約化:①青地・白地見直し、②農地の持ち主との連絡(今までJAがやっていた事)、③農地の売買規制緩和、④農地の開発のうわさにより、集積・集約が進まない、⑤農地保全に対する権限強化。担い手への農地集積(担い手の選定)の明確化、⑥農地集積を希望しても、待っているだけでは集まらない、⑦農地の中間管理機構が前面に出てきているが、今まで通りの貸し手・借り手の制度を温存で出来ないのか、払いたくない中間の手数料が経営を圧迫しないか、⑧受委託等の手続の簡素化、各種情報提供、⑨農業経営基盤強化促進法維持、⑩集約を進める利用権設定契約、⑪農地希望者リストを作り意欲的な人に情報を提供

3.耕作放棄地対策:①休耕田の整備や他の利用方法検討、②耕作放棄地への対応と対策、③機能しない農地を減らす、④耕作放棄地の早期解消、⑤近年、雑草だらけの水田が目立つ、耕作放棄地となる前に対策を、⑥JAや区役所と一体でシステム構築、⑦今後増える耕作放棄地への対策はあるのか?ぜひ、回答願いたい、⑧耕作放棄の地主への積極的指導

4.農地転用:①大規模担い手は機械が増え、置場に困っている、ある程度の農地(ビニールハウス等)機材置場に、②どの農地を守る必要があるか?守らなくても良いかを地域の意見を聞き決定。どんな農地でも守っていたら、生産者を守れない、③転用し易くして、農村に人を増やす。このままではまずい、④農業施設用地の拡大手続簡素化、⑤認定農業者には、農地転用簡素化(経営改善計画に沿った農地転用という意味) 、⑥農地転用をスムーズに

5.農業委員会体制・活動:①人材育成、②農業委員の数が少ないので、もっと定数増を、③地域とのコミュニケーションをもっと大切にして要望を拾う。施設園芸に対しても同様、④農業ビジネスで使う農地の転用での土地改良への決済金補助など+農業委員選出の尺度明確化、⑤現状で頑張ってください、⑥(活動に)期待できない、⑦農業者と農業委員会は車の両輪の関係。農業委員会が農地と農業者の地位を守ってくれて、農業者は安心して農業ができる、しかしながら実態は、農業委員会は自分たちの(面積判断の)小さな基準のみを守ろうとして、地域農業を守ろうという視点が弱い。法人が大規模経営をしようとする時に、農業委員会の基準が小さすぎて、支障となる、⑧圃場回りへのゴミ捨て防止の巡回

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4.まとめと提言

1.担い手の「熱い想い」を受け止めた(農政議連との)「対話の場」の充実化
2.精一杯がんばってる法人層の努力に改めて敬意→各層のニーズに合わせた(きめ細かな)制度設計(法人の性格・規模・作目による違い)
3.他方、「何もかも法人に丸投げ」では回らない時代→担い手づくりの再強化
  規模拡大への限界感=担い手(法人)の育たない地域・集落をどうしていくか
  せっかく育った法人の経営発展・継承をどう支えるか
4.ベースとなる農村集落(機能)の維持・発展もセットで進める必要性
  集落と法人層の関係構築支援も今後の行政(農業委員会)の課題
5.(全国的に遅れている)圃場整備への期待、施設・機械投資(元気な農業支援事業の強化)への支援
6.農地利活用ルール・農業委員会の機能強化は地域との対話の積み重ねで

→なお、今回の調査の限界性(農政議連の今後の活動への期待)
 (新潟の強み)個別農業経営体・集落側の状況や意向の把握も必要

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5.参考(単純集計)の結果など

 

 

●自由回答|市政に期待すること(PDF:167KB)

●自由回答|農業委員会や地域の農業委員等に対する希望・要望(PDF:145KB)

●調査票(PDF:467KB)

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